読書や日常の感想文

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【感想】東野圭吾『人魚の眠る家』を読んで

 目次

 

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面白かった本

以前書いた記事で「読書なんてほとんどしてこなかった」なんて書いていましたが、実は2年程前に少しだけ本を読んでいた時期がありました。というのも、通勤時間などの空き時間はスマホで暇つぶしのゲームをするか、漫画アプリを読むかの2択だったのですが、どちらもマンネリ化してしまい、新しく何かないかと思って読書を取り入れたわけです。その読書も2冊程読んだだけで終わってしまい、またスマホアプリに戻ってしまったのですが、その時に読んだ本の内容がとても印象的で面白かったので、今回はその本について紹介していきたいと思います。

 

東野圭吾作『人魚の眠る家

今回紹介させていただくのは、東野圭吾さんの「人魚の眠る家」です。この本は東野圭吾さんがデビュー30周年を記念して執筆した小説です。読書を始めるにあたり、以前から東野圭吾さんの本は面白いとの評判を聞いたことがあったことと、当時映画化も話題となっていたので本屋でも大々的に宣伝されていたともあり、この本を手に取りました。この本を読んでから約2年は経ちましたが未だに内容をしっかり覚えているので、それだけ面白い内容でした。

 

どんな話?

脳死」という非常にデリケートなものを題材にした話で、離婚間近の夫婦・和昌と薫子と、脳死状態となってしまった娘・瑞穂を中心に物語は展開されます。

和昌は脳の働きを補助する機械(身体に取り付けた機械が得た情報を脳に発信したり、逆に脳の代わりに身体へ信号を発信したりする機械)を開発している企業ハリマテクスの社長で、家庭よりも仕事を優先しがちな仕事人間です。そんな和昌に対して薫子は愛想を尽かし、娘の瑞穂が私立小学校に入学した後に離婚をすることが決まっていました。瑞穂の小学校入学直前、瑞穂がプールに溺れてしまい「おそらく」脳死の状態となってしまいます。この「おそらく」が、物語を広げていきます。というのも、和昌と薫子は瑞穂の臓器提供の判断を迫られ、一度は瑞穂の死を受け入れて臓器提供を承諾するものの、脳死判定の直前に信じられない出来事が起きます。なんと動かないはずの瑞穂の手が動いたんです。これを目撃した薫子は、瑞穂がまだ生きていると信じます。ここから、薫子の奇妙とも、娘への愛とも取れる瑞穂の介護生活が始まります。そしてその生活は、様々な登場人物達を巻き込んでいきます。

 

ここが面白い

なぜこの本が面白いと感じたのか。それには3つの物語を引き立てる要素があると思います。

  1. ハリマテクスの技術
  2. 薫子の魅力
  3. 人の死とは何か

 

ハリマテクスの技術

瑞穂を介護していく上で非常に重要なのが、ハリマテクスの技術です。この技術がとても興味深いんです。架空の技術ではありますが、そう遠くない未来にできそうなリアリティのある技術なんです。説明を読んでいるだけでワクワクしたのを覚えています。そして、物語の中でとても重要な役割を果たしたのが「横隔膜制御装置」(名前は忘れてしまったので、雰囲気で付けました)なのですが、その装置を身体に埋め込むことで、人工呼吸器がないと呼吸ができない瑞穂が人工呼吸器を外すことに成功します。何が変わるの?と思うかもしれませんが、非常に重要な部分が変わってきます。それは、顔からマスクやホース等の存在がなくなることです。横隔膜制御装置は身体の中に機械が埋め込まれるため、見かけ上は自発呼吸をしているように見えるので「機械に生かされている」という印象が一気になくなるのです。これにより瑞穂はただ眠っているこれに薫子は喜び、今まで以上に介護に力を入れていきます。

 

薫子の魅力

薫子は物語の中で夫以外の複数の男性から好意を持たれます。それだけ容姿が良い女性なのだと思いますが、容姿に加えて誠実で愛情深い性格と、どこか危なっかしい雰囲気を持つところが周囲を惹きつけたのだと思います。私も薫子の行動に目が離せないものを感じたのですが、この魅力こそが物語を面白くしていると思いました。薫子の行動は瑞穂のためにも見えますが、娘への愛情と取れるその行動は捉え方によっては異常とも取れます。私も含めて物語の登場人物達はそんな薫子の行動に対する答えを見出せず、薫子の行動に翻弄されていきます。

余談ですが、映画では薫子を篠原涼子さんが演じています。私がこの本を読み終えて間もない頃、たまたま街中でこの映画のポスター(篠原涼子さんが1人子供を抱える仕草で立たずんでいる)を見かけたのですが、私のイメージしていた美しく危なげな薫子と篠原涼子さんがあまりにもシンクロしていたので衝撃を受けたのを覚えています。ポスターであんなにも雰囲気を出せるなんて、篠原涼子さんはすごい方です。

 

人の死とは何か

物語を面白くした要素と言うと語弊があるかもしれませんが、3つ挙げた要素の中で1番大きな部分だと思います。人の死とは何なのか、私は未だに答えは出ていないです。この小説が扱っている人の死は、誰にでも必ず起こるものではないですが、誰にでも起こる可能性はあります。結果、この小説を読む事で人の死とは何か考えさせられ、この小説に引き込まれました。私が薫子と同じ立場になったとして、娘の状態を死と捉えるのか、それとも生きていると捉えるのか。やはり、この文章を書いている今も答えは出そうにないです。デリケートかつ少し重いテーマではありますが、読者の心に何かしらの衝撃を与えることは間違い無いと思います。

 

最後に

人魚の眠る家は、重たいテーマを扱っていますが、設定や文章が非常にしっかりと練り込まれており、読者を物語にぐいぐいと引き込んでいく力のある小説だと思います。もし、まだ読んでいない方は是非手にとっていただきたい本だと思います。

 

最後までこの記事を読んでいただき、

ありがとうございました。