読書や日常の感想文

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頭の中の文字起こし

【感想】『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット

カート・ヴォネガットSF小説タイタンの妖女』を読みました。500ページ程の少し分厚めの小説で、爆笑問題太田光さんはこの本をとても気に入っており、立ち上げた芸能事務所の名前をこの本から取って「タイタン」にしたそうです。

 

アメリカのSF小説の傑作とされるこの小説ですが、読んだ感想としては、訳が分からない内容だったけど、読み終わった後に内容を振り返ることで急に面白く思えた、といった感じです。

実はこの文章を書き始める前は、なんだかよく分からない小説、というのが正直な感想でした。今回は本の感想と、何故面白いと思えるようになったのかについて書いていきたいと思います。

 

あらすじ

主人公のマラカイ・コンスタントは父から相続した莫大な財産と生まれ持っての強運で自由奔放に生きていました。そんな彼の前に未来を見通す力を持つラムフォードという人物が現れ、マラカイは土星の衛星であるタイタンに行くと予言します。

その予言を聞いたマラカイは予言に抗おうとしますが、結局宇宙に飛び立つこととなります。マラカイは、火星、水星へと渡りながらそこで様々な事を体験して、一度地球に戻った後にタイタンへと行きます。マラカイはそこで宇宙船の故障で立ち往生していた宇宙人と出会います。そして、マラカイ(の息子)が偶然持っていた金属片が故障した宇宙船の修理部品である事を知ります。

実は、マラカイどころか地球人類の歴史そのものがその宇宙人に操作されたものであり、全ては故障した宇宙船の修理部品を届けるために操作されていたものだという衝撃の事実が明かされるのでした。

 

この本を読んで考えたこと

宇宙を舞台に繰り広げたマラカイの壮絶な体験はきっと何か凄い目的の為なんだと期待していたのですが、まさかの宇宙船の修理部品を届けるためだけであったというものすごい肩すかしを食らいました。ただ、感想を書いているうちにこの本が言いたかった事がわかった様な気がします。

マラカイの身に起こった出来事は何か意味があるように見えますが、人間の人生なんてものは大した意味もない、という事なんだと思います。僕も自分に起きた事を何かと意味があるものだと結びつけがちですが、それに一喜一憂するのってなんだか馬鹿らしいなと思えました。何百頁にもわたってあたかも意味ありげなマラカイの人生を通して、人間の人生は大した事ではないと表現していたことに気がついた時、急にこの本が面白く感じました。

そうやって考えている中で、最初はそれ程印象に残っていなかったセリフが、急に感動的なセリフに思えたものがありました。それは、ビアトリス(ラムフォードの元妻でマラカイに強姦されて息子のクロノを産み、マラカイと一緒にタイタンに流刑となった女性)が息を引き取る前に言ったセリフです。

 

「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」

「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」

「私を利用してくれてありがとう」

「たとえ、わたしが利用されたがらなかったにしても」

 

はじめはあまり理解できませんでした。

なんとなく感動的なセリフなんだと思っていたのですが、何故そんな事が言えるのかが分からなかったんです。

でも、この本が言いたかった事を考えていたら、このセリフの意味をなんとなく理解してきて、すごく清々しくて感動的なセリフに思えてきました。

人間の人生には大した意味はない、だからこそそんな中で自分が何からも関心を持たれないことは1番不幸な事なんだ、と言っているんだと思います。

ビアトリスはこの考えに至って、自分の人生を振り回したマラカイに対しても、自分に関心を持ってくれてありがとうと言ったんですね。

今までごちゃごちゃしていて、何が何だか分からなかったストーリーがこのセリフで、すごく腑に落ちたというか、急に整ったもののように感じました。

SF小説ですが、人生の考え方について説いた哲学書のような一面もあり面白かったです。

 

おわりに

カート・ヴォネガットSF小説タイタンの妖女』の感想を書いてみました。実は読んでいる間は初めて感想が書けない本を読んでしまったと思っていたのですが、傑作と呼ばれているだけあってしっかり心に残る小説でした。

最近は自分の生き方について色々と考えてしまう事が多くなりましたが、そんなに難しく考えなくて良いんだと思わせてくれる本でした。爆笑問題の太田さんが絶賛するのも納得です。単純に面白くて好きなSF小説というより、人生観に影響を与えるそんな作品だと思いました。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。