読書や日常の感想文

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頭の中の文字起こし

【感想】衝撃の結末 伊藤計劃『ハーモニー』を読んだ

先日、伊藤計劃さんのSF小説『ハーモニー』を読み終えました。通勤の移動時間で少しずつ読んでいたのですが、とても面白く、退屈な通勤時間を楽しみに変えてくれた本でした。

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物語の舞台

舞台は科学の力で人間の健康状態を徹底的に管理することで病気が殆どなくなった世界です。こうなった背景には、過去に起きた世界規模の暴動で核爆弾が乱用され、放射能や未知のウィルスによって人間の健康が脅かされた歴史がありました。

病気の無い世界と聞くと「最高、素晴らしい!」と思うかもしれませんが、これを実現するために社会規模の異常な健康管理が行われています。

本来、健康という言葉は良い印象を持つことが多いですが、それを極端に重視する世界観が本来のイメージとは逆の不気味で気持ち悪いという印象に変えています。この世界観が、怖いもの見たさに近い好奇心が刺激されて、とても惹かれました。

 

人間は公共のリソース

人々は健康を脅かされている状況から抜け出す為、「人間は公共のリソースであり、健康を保全することが最優先である」という生命主義のもとに集まり、生府と呼ばれる新しい統治機構を作ります。

この生府の中で暮らす人々は、健康を維持することが常識であり、不健康な行為は非常識であると考えられています。

つまり、背脂ニンニク増し増し濃厚豚骨ラーメンも、スイーツ食べ放題のお店もご法度、というより存在すらしていないので、食べる事が好きな僕にとっては逆に不健康になりそうです。

更に、生府に住んでいる人達は「WatchMe」と呼ばれるナノマシンを身体に入れて常に健康状態を管理されており、もし異常があれば生府の住人が標準装備しているコンタクトレンズに異常の内容が映し出されるようになっています。そして、その異常を正常に戻すために生府が薬や治療を提供してきます。

例えば、1日の糖分摂取量を超えて甘い物を食べまくると、Watch meがそれを観測して警告してきます。「甘い物食べ過ぎ!」「こういう食べ物が理想です!」と目の前に映し出されるわけです。想像するだけで気が滅入りそうです。

 

衝撃の結末

そんな世界で生きる物語のヒロインであるトァンは生府のエリート職員なのに、生命主義の考えを嫌悪していて、事あるごとに社会に対して皮肉を言います。でも、それが全然嫌な感じがしなくて、むしろこの世界の中では人間らしくて、魅力的に感じました。

人に異常な程に優しい世界ですが、ある日世界で大量の人間が自殺する事件が発生します。この事件の真相をトァンが調査していくのですが、調査を進めるごとに事件がトァンが過去に慕っていた友人ミァハと繋がりがあることが明らかになっていきます。それがとても面白くて、毎日30分の通勤時間があっという間に過ぎて行きました。

実は僕はこの本が初めて読んだSF小説になります。SF小説だけあって難しい言葉が沢山出てきましたが、どれも分かりやすく、しかもトァンの皮肉混じりの解説が面白く、とても読みやすかったです。

物語のラストも「こんな終わり方があったか!」と衝撃的でとても面白いので、もしSF小説を読みたいなと思っている人にはおすすめしたい本です。

 

読み終えて

ハーモニーを読んで「楽園」とはどんな場所を指すんだろうと考えました。思えば僕が子供の頃に空想していた未来の世界ってこの本の世界とあまり変わらないんですよね。

科学が進歩して不治の病なんてものは無くなって、人間の代わりに機械がなんでもやってくれる、子供の頃の僕であればそんな世界を楽園と考えたかもしれませんが、この本のラストを読んだ今では本当に楽園と呼べるのか分からなくなりました。

良いことも極端に突き詰め過ぎると本来あった良い部分を潰してしまう事があるように思います。何事もバランスが大切なのかもしれません。

結局、楽園についての答えは出ませんでしたが、こうやって考えることが楽しかったです。

 

伊藤計劃さんの『ハーモニー』おすすめです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。