今回は乙一さんの『The Book』を読んだ感想を書いていきます。
この本は僕の大好きな漫画「ジョジョの奇妙な冒険 Part4」のスピンオフ作品で、著者の乙一さんもジョジョ好きということで、この作品に5年を費やしたと言われているとても気合の入った作品です。
その執筆年数に見合うだけのとても面白い内容でした。
この本の良かったポイント
まず、ジョジョの奇妙な冒険の世界観を簡単に説明しておくと、この世界には「スタンド」と呼ばれる超能力(人によって様々な能力を持つ守護霊みたいな力)を持った人間が存在して、本編のジョジョの奇妙な冒険part4では杜王町を舞台に殺人鬼・吉良吉影との熾烈な戦いが繰り広げられました。
本作品はその吉良吉影との戦いから半年後の話となります。
感想
物語は本編にも登場した岸辺露伴と広瀬康一が、血のついた猫に遭遇し、猫を追った先に家の中なのに車に轢かれたように死んでいた奇妙な死体を発見することで始まります。
その犯人を突き止めるため、岸辺露伴のスタンド能力で猫の記憶を読み取り「腕に爪の傷跡がある男子学生」が犯人であることが分かります。
僕はこの時点で物語にかなり引き込まれました。
普通はこんな気味の悪い事件に関わりたくないのに、怖がりながらも康一は杜王町で起きているこの事件に立ち向かおうとするんですね。
この感じがジョジョの世界観にすごくシンクロしていて、始めはスピンオフ作品と甘く見ていましたが見方が変わりました。
犯人の「腕に爪の傷跡がある男子学生」って言う奇妙なところも世界観にマッチしていて良かったです。
ちなみに、原作ありきで評価しましたが、仮にジョジョの要素無しでも面白いと思います。文章から伝わる生々しい不気味さが、先を知りたい気持ちを刺激してどんどん読み進めてしまいました。
事件を調査する康一から語り手が本作品でのオリジナルキャラクターである蓮見琢馬に変わります。
実は琢馬が「腕に爪の傷跡がある男子学生」で、母親を殺した父親への復讐を企んでいます。康一達が遭遇した事件は、その復讐の一環でした。
琢馬の復讐の理由が、また悲惨というかとても怖いです。
琢馬の父親の双葉照彦は違法建築を売り捌いて金儲けをしている建築家で、照彦の愛人だった飛来明里(蓮見の母親)に悪事がバレた事から、明里を殺そうとビルの屋上から突き落とします。
明里は運良く命は助かったものの、それを知った照彦から「助けを呼べば両親を殺す」と脅され、落ちた先の出口の無いビルの隙間に約1年間幽閉されてしまいます。
この時、明里は既に琢馬を身籠っており、ビルの隙間に幽閉された状態で琢馬を出産。明里は隠した照彦の金の在処を交渉材料に琢馬を生かすよう交渉を持ちかけ、その結果琢馬は生かされました。
その後、明里はビルの隙間で死亡し、琢馬は身元不明の孤児となりました。
成長してその事実を知った琢馬は照彦に復讐を誓ったわけです。
すごく怖くないですか。
ものすごく惨いです。
ビルの隙間に幽閉されて、しかもそこで出産をして、子供は助かったけどその後は衰弱死。
明里の気持ちを想像すると寒気がしそうです。
そうさせた照彦は本当にどす黒い悪ですよ。
乙一さんの作風なのか、本作品は全体を通してとても怖いんですよね。
幽霊とかそういうのではなくて、生理的に嫌悪するような怖さがあって、でも続きが気になって読んでしまうという色々と怖い作品です。
基本的には復讐計画を進める琢馬とそれを追う康一らで物語は展開していくミステリーですが、ちゃんとジョジョでお馴染みのスタンドバトルもあります。
琢馬と彼を追い詰めた康一原作の主人公である東方仗助と仲間の虹村億泰らが激しいバトルを繰り広げます。
琢馬も自分が今までに経験した全てが記録されている本型のスタンド能力「The Book」を持っており、相手にその本の内容を見せる事で見せたページに記載されている内容を追体験させることができます。
このバトルも面白くて、戦い慣れしている仗助達に対して琢馬は心理戦を仕掛けたりしてすごく良い勝負をします。
単純なパワーのぶつかり合いではなくて、スタンド能力をうまく使いこなした方が勝つといった感じが面白かったです。
結果的に琢馬は敗れてしまいますが、戦いが始まった頃には琢馬の復讐は達成していました。
ここでは書きませんが、この復讐の内容もまた惨かったです。でも、その予想できないところがまた面白かったです。
最後に
僕がジョジョ好きということもあって、最後までとても楽しく読めました。びっくりするぐらいジョジョの世界観に馴染んでいて、時折挟んでくるジョジョネタも乙一さんの原作への愛が垣間見えて良かったです。
全体を通して、怖くて不気味な雰囲気を持つ作品でしたが、読む手が止まらなくなるとても面白い本でした。
次の本も読見終えたら感想を書きます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。