読書や日常の感想文

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頭の中の文字起こし

【感想】コロナ禍という理由で『復活の日』を読んだ

復活の日 (角川文庫) [ 小松 左京 ]

価格:836円
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SF小説にハマってから3冊目の本です。今回はこちらの本の感想を書いていきます。

先日、ジェイムズ・P・ホーガンSF小説ガニメデの優しい巨人』が読み終わり、続編の『巨人たちの星』を早く読みたい気持ちもあったのですが、一旦違う作家のSF小説も読んでみようと思って出会ったのがこの作品です。

作者は「日本沈没」で有名な小松左京さんで、今から半世紀以上前の1964年に書き下ろされた作品です。表紙の帯に書かれた"パンデミック"、"ウイルス"のワードに興味を惹かれて手に取ったのですが、コロナウィルスの登場でこれらのワードを頻繁に耳にするようになった現在に対して、半世紀以上も前のこの作品は一体どんな内容なんだろうと思い、読んでみることにしました。

 

196X年の冬、吹雪によりアルプス山中に一機の小型飛行機が墜落した。その飛行機には、細菌研究所から盗まれたウイルスが積まれていたのだった。

冬が終わり春が訪れた頃、飛行機が墜落した付近でで交通事故が発生、運転手が死亡した。検死の結果、交通事故ではなく心臓麻痺が原因である事が分かったのだが、一命を取り留めたはずの同乗者も同じく心臓麻痺も死んでしまう奇妙な出来事が起きた。これ以降、世界中で風邪の症状に似ているが症状が進むと心臓麻痺を起こす謎の病気が流行り、世界中に広がっていく。誰もが「たかが風邪だ」と甘く考えていたが、その強い感染力と高い致死率で世界中は大混乱に陥り、遂には南極大陸に滞在していた軍人、学者達の約一万人を除いて、人類は死滅してしまう。

 

タイトルの「復活の日」のイメージから凶悪なウイルスと人類の戦いを描いた人間ドラマだと思っていましたが、人間同士の争いの末に招いたパンデミックにより人類が絶滅の危機に追いやられる、いわゆる"終末もの"の話でした。僅か0.1μm程度の小さな生き物に人類が成す術もなく追い込まれていく様はあまりにも一方的で、作中の登場人物が何故こんなことになってしまったのか、と語る姿は、作者の代わりに争いの絶えない世界に怒り、嘆いているようでした。

どんなに優れた医学や技術の発展も、利用の仕方によっては人殺しの道具となり、情報は世界から隠され、またそれらの情報を探り合い、奪う、その繰り返し。そんな人間の暗い部分が詳細に描かれていました。

驚いたことに、凶悪なウイルスのパンデミックに混乱する世の中の描写は、現在のコロナ禍を見てきたかのようにリアルに描かれていました。たかが風邪だ、現代の医学があればすぐにワクチンができて収束する、そんな楽観的な考えから、じりじりと、でも確実に近づいてくるウイルスの影に恐怖を感じ始めるまでの描写はまさに僕自身が体験してきたことと同じでした。人間の行動パターンというものは昔も今もあまり変わらないものなんですかね。

作品の中で特に印象に残ったのは、ある学者がラジオで自身の学者としての行動を恥じる場面です。その学者は何ページにも渡って語り続けるのですが、死人で溢れる街には聞く人もおらず、ただただ虚しく響くばかりで、最後には学者自身も死んでしまいます。この場面はすごく印象的で、強いメッセージ性みたいなものを感じて実際に僕がラジオの前でその声を聞いているかのように思えるぐらい集中して読んでいました。

 

読み始めは難しい言葉と読めない漢字に非常に苦戦しましたが、話が進むにつれてそれらも気にならない程とても面白かったです。ちょっと話が逸れますが、特定の人達の利益ではなく、人類のために行動すべきだ、というような知識人としての倫理観を語られる場面が何度かあるのですが、そこで僕の職場の前社長が引退間際に僕に言った言葉を思い出しました。

「社員である前に、技術者である事の自覚と責任を忘れずにな。決して言いなりになるなよ」

文章にするとなんだか良い言葉に見えますが、ミリオタの前社長は日頃から「兵隊(僕)はわしの突撃命令で突撃しろ」みたいな事を言っていたので、僕には全然心に響きませんでした。技術者としての芯を持てというのは分かるんですけどね。

話が逸れましたが、コロナ禍の今だからこそ面白く感じる本だったと思います。おすすめします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。