読書や日常の感想文

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頭の中の文字起こし

【感想】メモから生まれた驚愕のSF『ゴルディアスの結び目』小松左京

最近、本を購入する時に、紙書籍か電子書籍かで悩む事があります。

今は管理が簡単な電子書籍に気持ちが傾いていますが、実際に手でページを捲る感覚や表紙カバーの印象、本棚に並んでいる雰囲気など、紙書籍にも好きなところは沢山あるので完全に捨てきれない自分がいるんですよね。

僕の悩みはさておき、小松左京さんの『ゴルディアスの結び目』を読みましたので感想を書こうと思います。(これは電子書籍で購入)


以前、『復活の日』を読んで面白かったので、他にも色んな話を読んでみたいと思って短編集のこの本にしました。卵から女性の顔が覗いているちょっと不気味な雰囲気の漂う表紙ですが、巻末の新装版解説で小松左京さんの次男・小松実盛さんがこの表紙について触れており、小松左京さんはこの絵を非常に気に入って絵の作者に頼み込んで原画を譲ってもらった程だそうです。僕にはちょっとレベルが高過ぎて不思議な絵ぐらいにしか思えないのですけど、素晴らしい絵なんでしょうね。

さて、この本の内容についてですが、本作は四篇の連作で構成された短編集です。

この四篇は小松左京さんが世界を旅している時に残したメモから生まれたもので、読んでみると分かるのですが、一体どんなメモから生まれたんだと言いたいぐらい濃い内容で驚きました。正直、どの話も宇宙に関連づけた哲学(というかアイデア?)のような内容で理解が追いつかない部分もありましたが、それでも最後まで楽しく読めました。

では、それぞれの話の感想について書いていきましょう。

岬へ

人口1000人程度のシャドウ群島の一つのコープス島に住む訳ありな老人達の話で、島に訪れた青年と老人達のやり取りを中心に話は進んでいくのですが、年老いる事と宇宙のイメージを組み合わせた、難解な話でした。

ごたごたした人間の文明の中では欲望や煩悩に一生囚われてしまい、年齢は増えても年を取れない、と老人の1人が語る内容は完全に理解できたわけでは無いですが、何となくわかる気がします。人や人工物に溢れる中でいると、人間の世界にばかり意識が向きがちになるんだと思うんですよ。昔、屋久島で山登りをした事があって、山の斜面から突き出した大きな岩に座って景色を眺めていると、自分の存在がすごく小さいように感じたのを思い出しました。確かに、そういった環境の中だと街中にいる時とは人の一生についての考え方が変わってくるかもしれません。

ゴルディアスの結び目

人里離れた場所に建つ精神病院に収容されている少女マリアを救うため、精神分析医の伊藤が彼女の精神世界に入り込み、地獄のような世界を突き進んでいく話です。この本の中で1番印象に残った話で、人間の精神世界とSFを結びついけた発想はすごく面白いと思いました。

まずこの話で強烈に印象に残っているのはマリアの精神世界の禍々しさで、グロテスクな表現が苦手な人はちょっと嫌かもしれません。マリアは過去の悲惨な体験から心が崩壊してしまったのですが、そんな彼女の精神世界はまさに地獄のようで、それを文章で表している小松左京さんの表現力は凄いとしか言いようがないです。

心の崩壊がブラックホールになるという発想がまた面白かったです。本を読むようになって特に思いますが、人間の想像力というか頭の中は本当に無限の力を秘めていると思うんですね。そんな力を秘めている人間の心が崩壊した時、その人間の精神世界がブラックホールに変化するというのは、一見訳が分からない難解な内容と思いつつも、何故かすっと読めた面白い話でした。見た目が凄く毒々しいのにすっきりした味わいのジュース、そんな感じです。

すぺるむ・さぴえんすの冒険

地球人類の代表者・ミスターAが見た不思議な夢を発端に全人類の未来をかけた宇宙規模の壮大な展開を繰り広げる話で、この短編集の中では1番分かりやすい話でした。個人的にゴルディアスの結び目と、この話がお気に入りです。

ゴルディアスの結び目の主人公も正義感が強くてかっこよかったですが、ミスターAはユーモア溢れるジェントルマンといった感じで、主人公の魅力がこの話を気に入った理由の1つになっていますね。地球代表ということもあって、毎日緊急事態を想定した訓練を行ったり、コンピュータによる体調管理で殆ど強化人間のような身体になっているという設定も面白いです。

1番分かりやすい話とはいえ、『岬へ』もそうですが、宇宙ってなんだ?人間が知性を持った意味は?といった難しい内容が沢山出てきてちょっと理解が追いつかない、という部分も結構あります。でも、漠然とですが宇宙の謎について好奇心が出てくる話でしたね。最後の結末はミスターAの判断がカッコ良すぎて凄く好きです。

あなろぐ・らぶ

すぺるむ・さぴえんすの冒険の続きなんですかね?明確な繋がりは無かったように思いますが、どこか続きのような印象受けたの話でした。正直、1番難解な話で宇宙の誕生を擬人化したような内容は、神話を読んでいるようでした。

それにしても、小松左京さんの頭の中は一体どうなっているんでしょう。この短編集の話は全て旅先で残したメモから発展させた話とのことですが、普段から僕が想像もできないような事を考えているからこそ生まれてくる物語だと思います。もちろんそれを可能にするだけの知識と経験があってのことだと思いますけど、それ以前に物事の捉え方が凄く柔軟なんでしょうね。

おわりに

正直物凄く難しかったです。これは時間をあけて何回か読むことで理解できるようになるんですかね?

あまりに難しかったので解説を検索したのですが、古い本ということもあって期待していた情報は見つかりませんでした。そもそも、この本にとって解説なんて無粋なものなのかもしれませんね。

内容を完全に理解できなかったとしても、印象に残る部分は沢山ありましたので、いつかこの本に書いてあった内容はこういうことだったんだと思える日が来れば嬉しいですね。

メモから誕生した驚愕のSFでした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。